カヌーガイド
アウトドアコーディネーター
億貞 拓磨
大雪エリアのフィールドに広がる夢を追いかけて
旭川市の石狩川などでカナディアンカヌーのガイドや、士別市で焚火キャンプ場を経営する「Field of Dreams(フィールド・オブ・ドリームス)」代表の億貞拓磨さん。
27歳の時にカナダのユーコン川を単身カヌーで下った時の感動を、北海道でも多くの人に感じてほしい―。目の前の大雪エリアのフィールドには、億貞さんの夢が広がっています。
流域の自然と人々の暮らしを感じるまちなかの川下り
億貞さんが現在手掛けているのは、旭川市中心部を流れる石狩川、忠別川などまちなかの川下りのツアー。「スタート地点の秋月橋からしばらくは両岸に河畔林が広がっていて、旭橋が近づくにつれて、徐々に町並みが見えてくるんです」。川面から眺める旭川のまちは、地元民でも見たことのない風景が広がっています。
さらに石狩川を下って近文大橋を越えたオサラッペ川との合流地点には、高さ約3メートルのアイヌ伝説の巨岩「ノチウ」がそびえます。豊かな緑が広がる嵐山のふもと一帯の水辺は、アイヌの人たちの猟場でもあり、そこから神居古潭へと続く流域にはいくつものアイヌ伝説が伝わります。億貞さんは、ツアーでアイヌの人たちの暮らしを、神話を織り交ぜて解説します。
4本の川が旭川で合流して、1本の大きな流れとなって石狩平野へと続く。その水源は層雲峡の渓谷のさらに上流、大雪山の山岳から始まります。清らかな水は、酒造りや製麺業など、流域の産業を発展させました。旭川のまちの歴史は、そうした地形が背景にあること、人々の暮らしと水辺は昔から密接な関係があることを、億貞さんは強調します。
四季を通じて様々な表情を見せる川の魅力
大雪山の雪解け水が注ぐ初夏はひんやりと冷たく、水温が20℃を超える真夏は、川の水で水浴びしたくなる気持ちよさです。サケの産卵床があちこちに確認できるお盆過ぎの後には、河畔林が赤や黄に美しく色付く秋がやってきます。大雪エリアの河川は四季を通じて様々な表情を見せてくれます。冬の川下りはできませんが、今度はスキーやスノーシューなど、スノーアクティビティが楽しめる季節がやって来ます。
億貞さんは冬の間、元建設業の経歴を生かして、除排雪の仕事をしながら、ネイチャーガイドの勉強会などに出席して、アクティビティツアーの情報収集に努めています。世界でいまどんなツアーが人気を集めているのか、外の人たちからの助言で、大雪圏の魅力に気付かされることもあります。また地元の小学校に外部講師として招かれて、子どもたちに川遊びの楽しさを伝えています。同時に、雨が降った後は、水位が上昇するのに加え、流れの強さも増すので、危険な場所であることを伝えるのも忘れません。
昔と変わらぬ大雪山と星空の景観にロマン感じて
まちなか川下りのツアーの所要時間は、例えば秋月橋~旭橋までの約4キロのコースで1時間30分ほど。この間、岸辺に上陸できる場所を探して、コーヒーブレイクの時間もあります。川の流れる音を聞きながら飲む、挽きたてのコーヒーの味は格別です。
地形や川の流れなど、水辺の風景は昔とはずいぶん様変わりしていますが、そこから望む大雪山の景観や星空は、アイヌの人たちが眺めていた時代と何も変わらない―。その事実に億貞さんはロマンを感じます。
似たような感覚は、キャンプ場でキャンプファイアーをしている時にも、感じることがあります。「炎のゆらめきを眺めながら、ふと星空を見上げた時、大昔の人たちも火を囲みながら同じ景色を眺めていたんだろうな…と思いをめぐらせるんです。それって僕らのDNAレベルに刻み込まれた記憶なんだろうなって思います」。
体験ツアーで大切にしているのは「感じること」
少年時代から、川で釣った魚を焚火で焼いて食べていた億貞さんにとって、石狩川の水辺は慣れ親しんだ遊び場でした。大人になったいま、石狩川でツアーガイドをする億貞さんにとって大雪エリアは、いくつになっても少年時代の夢を思い描く場所です。
大雪カムイミンタラDMOと共同で、駅裏の鏡池でカナディアンカヌーの体験ツアーをコーディネートしたことがあります。「駅から5分の場所でカヌーが楽しめるロケーションなんて、世界でも旭川だけだと思います。駅裏にカヌーが浮かぶ光景がまちの日常になったら、『かっこいい』じゃないですか!」。夢を語る億貞さんの瞳は輝きます。
小学校のころから野球に打ち込んできた億貞さんは、高校3年の夏、甲子園出場の夢破れて、野球部の仲間4人で留萌方面へ3泊4日の自転車旅行を敢行したことがあります。「何を語り合ったか、それは憶えていないけど、仲間と一緒に見た夕日の美しさや、自転車で感じた風、どこまでも続く空と水平線の景色は今も忘れません」。ツアーで、億貞さんが今も大切にしている「感じる」というキーワードはこの時の体験が原点にあります。
「北海道最高峰の旭岳があって、そこから注ぐ雪解け水がやがて大きな河川になって、その流域に人々の暮らしがある。世界に誇るアクティビティの宝庫の素晴らしさを、国内外の人はもちろん、地元の人たちにも感じてもらえるようなガイドをしていきたい」と力を込めます。
カヌーガイド
アウトドアコーディネーター
・JSCA(一般社団法人日本セーフティカヌーイング)Safety &Rescue Program修了
・RACアシスタントリーダー修了
・上級救急救命講習修了
旭川出身。子どものころからキャンプや釣りなどアウトドア好きで、大学時代に湖畔のキャンプ場で目にしたカナディアンカヌーに惹かれ、独学で操舵技術を磨く。40代後半でツアーガイドとして独立。大雪エリアを中心に、川下りツアーのコーディネートを手掛ける。